「愛媛甘とろ豚」
出荷頭数を伸ばし続ける、ブランド豚の秘密。
日本に300種以上あると言われるブランド豚の中で、右肩上がりに出荷数を伸ばしている人気の豚肉がある。それが、平成21年に誕生したブランド豚「愛媛甘とろ豚」だ。名前の通りとろけるような口溶けで、美容や健康にもいいという。まさに豚肉の“いいとこ取り“をしたような理想の肉質は、県の全面的なバックアップのもとで飼育に取組む、熟練の養豚家たちによる知恵と技術と愛情の結晶だ。
とろりとした口溶け。柔らかい歯ごたえ。ジューシーな旨み。
「甘とろ豚は、一口で三段階のおいしさが味わえます」と語るのは、甘とろ豚を最初に飼い始めた松田養豚(大洲市)の松田浩さん。舌の上でとろりと溶け出す甘くて香ばしい脂、良質な赤身に大理石のようにサシが詰まった柔らかい肉質、噛むほどに溢れ出るジューシーな旨み。驚くことにこの三つのおいしさは、すべて科学的なデータで証明されているという。「口溶けは脂肪融点、柔らかさは剪断力価、ジューシーさは保水力と、項目ごとに数値化されています」と松田さんは続ける。美容や健康にいいと言われるオレイン酸が43.5%(一般の豚は34.6%)と豊富な点も、女性から高い支持を集める理由の一つだ。
「生後約7か月で出荷される甘とろ豚にとっての1日は、私たちにとっての1ヶ月やそれ以上の意味があります」と朝晩細やかに豚の健康状態を観察する理由を語る松田さん。甘とろ豚を産んでくれる母豚に名前までつけるなど、たっぷりの愛情をかけて育てている。
標高400メートルの中山間地に位置する松田養豚は、「天空の養豚場」と呼ばれている。新鮮な山の空気とおいしい清水に囲まれた人里離れた環境で、“ゆっくり、ゆったり、しっかり”と育てている。
幻の豚の血を引く品種を、愛媛県産裸麦でじっくりと太らせる。
「品種半分、エサ半分で決まる」と言われる豚肉の味わい。甘とろ豚は、“太りにくい品種の豚を、太りにくいエサで育てる“という方法を採用することで、美しいサシの入った引き締まった肉質になっていく。「甘とろ豚の父豚は、国内にわずか500頭しかいない中ヨークシャー種です。以前は日本でも主流だった昔ながらのおいしい豚ですが、太りが悪いため市場から姿を消し、今では希少種となっています」と松田さん。そして、そんな幻の豚の遺伝子を受け継いだ甘とろ豚に与えているのが、愛媛県産 “裸麦“。玄米よりカルシウムが豊富で、食物繊維が白米の10倍以上ある健康食材が、甘とろ豚の上質な肉質をじっくりと育んでいく。
ずんぐりむっくりとした体に、茶筒のような鼻がついた愛らしい風貌。肉質が最高の状態となる180日以上240日以内に出荷される。
愛媛県が日本一の生産量を誇る裸麦。安全で栄養たっぷりのオリジナル飼料を、出荷前のタイミングにたっぷり与えることで、おいしい甘とろ豚に仕上がる。
一頭一頭の息遣いを確かめながら、ストレスのない環境で育てる。
「甘とろ豚は一般的な豚の約1.2倍もの期間をかけて飼育するため、ストレスのない環境づくりが大切です」と語るのは、甘とろ豚のおいしさに感動して飼い始めたという志波養豚(西予市)の志波豊さん。常時800〜900頭はいるという豚を、“森林浴の森百選“に選出された龍澤寺緑地公園より奥深い水源から汲み取った天然水を飲ませ、密飼いを避けた広々とした環境で飼育している。長年のキャリアを持つ志波さんが、エサを与える朝晩に欠かさずチェックするのが豚たちの息遣い。呼吸に現れるわずかな変化から健康状態を読み取り、愛媛甘とろ豚普及協議会が策定した厳格な基準を満たす甘とろ豚へと仕上げている。
感染症や環境の対策のために、糞や尿の循環システムも完備。その一部は、宇和島市遊子水荷浦で栽培される“日本一収穫の早い男爵イモ“の堆肥としても使われている。
「丈夫な甘とろ豚が安定して生まれてくるように、種豚には鉄分やビタミン・ミネラルが豊富な特別な飼料を与えてます」と志波さん。
肉質のデータを飼育方法に反映し、安定したおいしさを届け続ける。
「おかげさまで、ご試食いただいたほとんどのお客様にお買い上げいただきました」と、デパートの試食イベントに参加した時の思い出を嬉しそうに語る志波さん。味にこだわるレストランなどからもリピーターが絶えない理由は、その肉質の安定性にある。愛媛県各地に散らばる5軒の養豚農家は年に数回集まって情報を共有。愛媛県の畜産研究センターが数値化した肉質データをもとにエサの使用量を調整するなど、絶え間ない品質向上に励んでいる。
松田養豚に飾られている、美しい甘とろ豚の彫刻。この作品を作った彫刻家も甘とろ豚のおいしさに魅せられたひとり。
甘とろ豚は、畜産研究センターで様々な品種を交配し、官能(味)や増体(太りやすさ)などの試験を繰り返すことで5年の歳月をかけて誕生した。