2019.8.7SUGO MONO

素朴で、あたたかく、頑強。人々の暮らしとともに続く、砥部焼の世界へ Vol.1 梅山窯

瀬戸内海の西部、伊予灘の海岸線に位置する松山空港。空港から内陸に向かって車を走らせると、どこまでも続く青空と鮮やかな緑の山々に目を奪われます。国道33号線に入り、砥部焼陶芸館を超えたあたりから、中央分離帯や民家の軒先に、大小様々な磁器の壺が飾られています。

愛媛県伊予郡砥部町。この街には現在、80軒ほどの窯元があります。約240年前、安永4年(1775年)から続く、砥部焼の街です。今回、この伝統工芸品を生み出す窯元、「梅山窯(ばいざんがま)」を訪ねました。

砥部焼で最も歴史のある窯元「梅山窯」は、創業130年。副社長の岩橋俊夫さんにお話を伺いました。優しそうな笑顔が印象的な岩橋さん。その笑顔の裏には、歴史を守り続ける覚悟がありました。

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手作り、手描きの文化、ここにあり。砥部焼の歴史を支えた、老舗の窯元

梅山窯は現在、スタッフ約40名で砥部焼作りをしています。砥部焼の窯元は1~2名のところが多く、梅山窯は一番大きな窯元なのだそう。そんな梅山窯は砥部焼の歴史にも深く関わってきました。

明治26年にアメリカでシカゴ万国博覧会がありまして、砥部焼が一等賞をもらったんです。それで有名になって、明治後半からは東南アジアや中国、インドネシアなどと貿易するようにもなったんですけど、太平洋戦争があって、リスタートすることになりました。

当時、残った窯元は数軒しかなく、戦争から戻ってきた先代社長の梅野武之助が砥部焼の再建に取り組んだそうです。

その時、民藝運動を提唱した柳宗悦さん、陶芸家の浜田庄司さんや富本憲吉さんが砥部を訪れ、ご指導いただいたんです。民藝運動は「美は生活の中にある」と主張し、観賞用の作品ではなく日常の生活道具に美しさを見出しました。そして、失われつつあった日本各地の手仕事に光を当て、それぞれの地域らしい民藝品の確立に寄与しました。その流れの中で、砥部焼はどんな形で生き残っていけばいいのか、様々なアドバイスをいただきました。そして、一筆書き(つけたて書き)を高く評価してくださったことから、今もこの技法が続いています。

何度も試行錯誤しながら現在の手作り、手描きの技法を作りあげた梅山窯。今でも、その芯はぶれることなく受け継がれています。

これまで続けてこられたのは、この技法のおかげだと思っています。一つひとつ手作りですから時間はかかりますが、この技法を守り作っていけたらと思っています。

ろくろで作った器を整える作業。余分なところをひとつずつ手作業で削り取っていく。マグカップなどの取っ手はこの工程でつける。この後、2、3日自然乾燥で乾かし、強度を与える。

乾燥後、素焼きをし、下絵を描く。梅山窯では、つけたての一筆書きで職人が丁寧に模様を描き上げている。この時に使う「呉須(ごす)」はコバルト化合物などを調合した顔料で、梅山窯では砥部で取れたものを使用している。

そば猪口の裏側にある高台に、「釉薬(ゆうやく)」と呼ばれる上薬がかけられ、つるつるの仕上がりになっている。昔は高台には釉薬はかかっていなかったが、お客様の声から、テーブルを傷つけないよう工夫されるようになった。

家族みんなが集まってたのしく食事をする。その傍に梅山の器があればうれしい

創業当時からお客様の声を大切にしてきたという梅山窯。ベストセラーのひとつというそば猪口も、梅山窯では藍色の手描き模様を中心に、いろいろなデザインが目を楽しませてくれます。

お客様から「そば猪口って、そば猪口以外に何に使えばいいんですか?」と聞かれることがあるのですが、作り手があれこれ決めるのではなく、みなさんの感性で自由に使っていただくのがいいと思っているんですよ。小物入れにしたり、一輪挿しにしている方もいらっしゃいます。そして、手作りのものが普段の生活にあることで心が豊かになってもらえたらうれしいですよね。ダイニングテーブルにみんなが集まって、食事をしながら話をする。そこに私たちの作った器が脇役として存在するなら、こんなにうれしいことはないですね。

そう話す岩橋さん。目指すのは「用と美」。日常生活で役に立ち、かつ美しいものを作り続けること。そしてそれを手が届きやすい価格帯で提供すること。

梅山窯の品は手作りにも関わらず、1,000円代のリーズナブルな価格が中心です。その上、「ひとつ買うと10年は持ちます」と岩橋さんが言う通り、割れにくいという特徴から、親子二代、三代へ受け継がれていくことも珍しくないよう。それによって家庭の中で子どもの頃から伝統工芸品に触れ、自然と目が養われていく、そんなことも梅山窯の器ならではの特徴といえそうです。

梅山窯は130年以上続いている窯元。自分たちの代で消してはいけないと思っております。それには多くの人に砥部焼を知ってもらうことが大事。手作り、手描きですから、まったく同じものはひとつもありません。そういった味わいを感じてもらえるとうれしいなぁと思います。

「誰もが購入しやすい手頃な価格で、誰もが気に入るものを作り続けたいと思っています。一方で、手作りですから、安くたくさん作り続けるのは大変です。それでも、この理念からブレずにいたい」と岩橋さんは言います。梅山窯で作られている砥部焼は5,000種類以上。一つひとつ手間暇がかかっていることを思うと大きな驚きです。

砥石が豊富な砥部町から生まれた砥部焼。長い年月を経て、様々な作品が生まれました。そして、手作りの歴史は今も変わらず続いています。その魅力はこれからも広く伝えられ、人々の暮らしを彩っていくことでしょう。

梅山窯 岩橋俊夫(いわはし・としお)さん
梅山窯 岩橋俊夫(いわはし・としお)さん

株式会社梅野精陶所 梅山窯 副社長。砥部町出身。明治15年創業の梅山窯は、砥部焼で一番歴史のある窯元として、太平洋戦争の影響で苦境に立たされた砥部焼の立て直しに貢献する。それからも砥部焼の特徴である手作り、手描き(一筆書き)の技法を継承している。ぷっくりとした丸みのある形、とても厚みがあって頑丈な作り、そして「用と美」を追求した美しさ、使いやすさで全国に多くのファンを持つ。

住所/愛媛県伊予郡砥部町大南1441 TEL/089-962-2311
https://baizangama.jp/
https://www.facebook.com/baizangama/
https://www.instagram.com/baizangama/
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