グローバルGAPとスマート農業の活用で、持続可能な農業を。みかん栽培の新しい価値を追求するミヤモトオレンジガーデン
愛媛県八幡浜(やわたはま)市は、北に伊予灘、西に宇和海を望む屈指のみかんの産地。訪れた11月は、これからみかんの収穫が始まる時期で、海に反射した太陽に美しく照らされたみかんの果実が、私達を迎えてくれました。
山を登れば、眼下には一面たわわに実るみかんの段々畑、その奥には瀬戸内海に浮かぶトロール船も眺めることができます。
特に、海沿いの傾斜地に位置する八幡浜の川上地区では、降り注ぐ太陽、海から反射した太陽、石垣から照り返した太陽、通称「3つの太陽」からの光をたっぷり浴びた、芳醇で甘みのあるみかんが育ちます。
今回、ここ八幡浜市の川上地区でみかんの生産・販売、加工を行っている「ミヤモトオレンジガーデン」を訪ね、詳しいお話を伺いました。
みかんの新しい価値、新しい楽しみ方を追求し続ける
八幡浜市のみかん農家に生まれた宮本さん。家業を継がず東京で一般企業に就職したが、父の他界や祖父母の介護や死去をきっかけに家業を継ぐ決意をされたそうです。
当初は、定年になったら地元に戻ろうと考えていました。しかし、今から20年前に父が亡くなり、畑の管理は父の友人を中心にお願いしていました。その後、祖父母の介護や死去などが立て続き、みかん畑を自分の手でなんとかしないと、という想いが強くなり、会社を辞めてみかん農家を継ぐ決断をしました。
「基本に忠実に。せん定(てい)・摘果(てきか)など日々の管理こそが大切」と、みかん栽培のこだわりについて宮本さんは語ります。
しっかり日々の業務を行うことで美味しいみかんができると考えています。みかん栽培は、収穫後の土壌整備に始まり、石垣の修復、せん定、摘果、防除(ぼうじょ)、施肥(せひ)など多岐にわたります。隔年結果を防ぎ、毎年平均的な量を収穫できるように意識して栽培に取り組んでいます。
みかんも生き物です。特に実をつけた後は、葉が変色したり、微かな風で葉が落ちたりと、木も疲労します。状態を観察し、疲れてきたら肥料を与えたり、花が咲いたら防除したりと、細やかなケアが大切です。
安全安心という「当たり前」の農業を目指す
農業の組織経営を改善すべく、グローバルGAP(以下GGAP)にチャレンジ。一般的に2、3年かかるところ、わずか3ヶ月で取得したそうです。
GAPとはGood Agricultural Practiceの略で、食品安全、環境保全、労働安全等、農業の持続可能性を確保するための生産工程管理の取り組みのことです。「適正な農業の実践」と訳されます。GGAPはその世界基準版で、2019年3月末時点で世界で約207,600団体、日本では約700団体が認証を取得しています。
GGAPを早く取得できたのは、農業経営を改善しようと日々取り組んでいた結果であって、特別なことはしていません。GGAPを取得することで、家族経営から脱却して、組織としての農業に取り組むことが出来るようになりました。他にも、大手量販店と取引ができたり、意欲の高い若手の従業員も集まったりなど、様々な変化がありました。
間引きした摘果みかんを廃棄するのはもったいない。有効活用の方法を模索する中で生まれたのが、この「塩みかん」でした。
みかんの加工品と言えば、ジュース、ジャム、ゼリーなどが一般的で、もっと、画期的な商品を作りたいと常々思っていました。
ちょうどその頃、知人の野菜ソムリエの方に塩レモンのことを聞き、それをみかんで作れないかと商品開発を進めました。
塩みかんには、8月下旬に採取された宮川早生(みやがわわせ)を使っています。これより早い時期になると、皮の苦味が強くなります。塩は愛媛の「伯方の塩」を使っています。まさに愛媛県産品で作られた逸品です。
塩レモンと比べると、控えめな甘みがあり、周りを引き立てる隠し味としてどんな料理にも使えるとプロの料理人の方々よりご評価を頂いております。
みかんの花が多いと果実が小ぶりになるため、陽に当たるよう枝をせん定して揃える。強い枝は美味しいみかんになりにくいため、柔らかい見込みのよい枝だけを残す。
ミヤモトオレンジガーデンで採取された温州みかん。アルベド(白い筋)はとても薄く口の中に残らない。ジューシーで、爽やかな酸味が口いっぱいに広がる。
みかんを収穫する時は、他の果実を傷つけないよう、枝の先端部分をきれいに切り取る。果実に傷がつくと、腐敗果(ふはいか)が増えるため、慎重に取り扱う。
GAPを通して地域の受け皿に。持続可能な農業を目指す
スマート農業を活用し効率的な農業を推進する宮本さん。今後は、自然災害の影響を受けないみかんを作っていきたいという想いがあるそうです。
雨量が多いと、糖度が低く水っぽいみかんになりやすいと言われています。畑によっても、風の影響を受けやすい、水はけが良いなど、それぞれ特色があるので、それらのデータを記録するところからまず始めたいです。防虫・防除作業に関しても、ドローンなどで監視し、問題箇所を重点的に作業できる体制にできれば良いなと思います。
GAPを通して、農業ひいては地域を盛り上げたい、宮本さんからはそんな熱い想いが伝わってきました。
2018年にはGAP取得のノウハウをまとめたシステム「MOG-GAPシステム」を開発しました。もともと、自分たちのGAP更新のための作業を簡略化するために作りましたが、今はGAP認証取得支援システムとして農業高校や農業大学校や農家に提供しており、利用者も少しずつ拡大しています。今後は、システム利用者同士で勉強会を行ったり、学校から農家へ指導して頂いたり、GAPを販売する小売店・流通業の方も巻き込み、GAPが農業界に拡がるような取り組みを進めていきたいと思っています。
さらに、引退した農家から技術を教わり、そのお返しに若い労働力(マンパワー)やエネルギーを提供するような取り組みも考えています。我々が地域や農業の受け皿になり、もっとこの取り組みが広がれば、後継者不在で廃業する農家が減少し、若い生産者も成長し、持続可能な農業の仕組みを作っていけると信じています。
GAPの普及、「塩みかん」の開発など、現状に甘んじずに常に新しいチャレンジに取り組む宮本さん。自社ブランドを拡大したいという気持ちだけでなく、言葉の端々には、八幡浜、みかん農業、かんきつ栽培とともに盛り上がっていきたいという想いを感じました。宮本さんは「新たなみかんの加工品を作り、より多くの人にみかんの新しい価値、新しい楽しみ方を提案したい」と語ります。次はどのようなチャレンジに挑むのか、今後も目が離せません。
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