2019.11.27SUGO MONO
  • ホーム
  • 今治のタオルの歴史と魅力 Vol.1 IKEUCHI ORGANIC

ふわっと優しい心地よさの中にある、しなやかな強さ。今治のタオルの歴史と魅力 Vol.1 IKEUCHI ORGANIC

「しまなみ海道ができたら、きっとお客様が来てくれるようになるから、今治でタオルを売ろう」。

1999年に開通した、「瀬戸内しまなみ海道」。愛媛県今治市と広島県尾道市、そして瀬戸内海に浮かぶ6つの島をつなぐ全長約60kmの橋です。風光明媚な景色が堪能できる場所として、サイクリストをはじめ、多くの観光客を集めています。

1990年代、日本有数のタオルの産地だった今治は、輸入品に押されて元気をなくしていました。IKEUCHI ORGANICの前社長である、代表の池内計司さんは当時、四国タオル工業組合の役員でした。「しまなみ海道ができれば、今治は復活するーー」。そんな呼びかけのもと、仲間たちを励まし続けたそうです。今では高品質のタオルブランドとして、すっかり定着した今治タオル。大きな不況を味わった今治タオルが再び盛り上がりを見せるまで、どんな積み重ねがあったのでしょうか。最先端で挑戦を続けてきたIKEUCHI ORGANICの歴史とともにご紹介します。

Share
  • Line


織物の産地から、タオルの産地へ。

今、日本で流通しているタオルの約20%は国産、約80%が輸入品です。そして、国産20%のうち、約60%は今治、約40%は泉州(大阪府南部)で生産されているそうです。

世界でタオルが発明されてから、まだ170年くらいなんです。日本では、明治5年に大阪の輸入商が持ち込み、明治20年頃から作られ始めました。一気にタオルの人気が広がり、今は今治と泉州が主な産地となりました。

タオルの生産地となった今治。それは綿織物が関係していたようです。

今治は江戸時代から織物産地でした。明治に入り、外国産の安価な綿(わた)に押されて、綿の生産が行きづまりましたが、織物産業は脈々と続いてきました。そして、今治でネル(毛織物)を作っていた人がタオルを作り始めたのをきっかけに、今治はタオル産地となっていきました。

タオルの生産地として成長していた今治ですが、1990年頃からコストの安い輸入品が増え、大きな打撃を受けたそうです。タオル工場の灯りが一つ、二つと消えていく中、2000年頃から復活への挑戦が始まりました。

2001年頃、タオルメーカーのコンテックス、藤高、当社の3社が東京の白金にお店を出しました。その時、今治市長が「民間企業が頑張っているのだから、今治市もやらなければ」と言い、2003年、タオル組合と共同で銀座にショップを出しました。しかしその直後、銀座の地価高騰により維持が難しくなり、3年で閉店してしまいました。その後、新たな取り組みとして、地域団体で「今治タオル」という一つの商標と、「今治タオルブランドマーク」の商標を取りました。それが大きく広がり、ブランドとして認知されるようになったんです。

地域ブランドが世の中に受け入れられ始めた頃、同時に、IKEUCHI ORGANICのような自社のブランド製品が認められる時代がきたと池内さんは話します。

うちは長い間、ライセンスブランドのOEMを数多く手がけてきました。その収益があったからこそ、1999年、どこよりも早い時期から自由なコンセプトづくりができたのです。

お客様の声に耳を澄ませる。今も代表自ら、お客様のメールをチェック

「池内タオル」としての創業は1953年。当初はライセンスブランドではなく、自社のタオルを生産していたそうです。そして、1970年初期に、外国製の高級ブランドのライセンスタオルが登場し、OEM生産へ移りました。

1999年の瀬戸内しまなみ海道の開通を機に、自社ブランド「IKT」を立ち上げました。うちにとって初めての自社ブランド製品です。当時はまだ今のような明確なビジョンはありませんでしたが、いずれオーガニックの時代がくると思っていましたね。

自社ブランドを作り、お客様の声を丁寧に聴く体制も整えていったそうです。

1995年に自社のWebサイトを作りました。僕のメールアドレスを公開して、お客様からの問合せはすべて僕に届くようにしたんです。今でもメールを見ていますよ。家業だった当社に戻る前は、松下電器産業(現パナソニック)でオーディオブランドの「Technics(テクニクス)」を手がけていました。僕を教育してくれた方は、最高のマーケッターでしたね。入社すぐの仕事は、愛用者カードを全てチェックすること。徹底的に生活者視点を大切にするように教育されました。

松下電器産業を退社したのは1982年12月20日。翌年2月、池内タオルの創業30周年のタイミングで入社する予定が、数日前に当時の前社長が急逝。いきなり社長としての仕事を始めた池内さん。

まったくの素人だから、必死でタオルの作り方を勉強しました。そして2年で、タオルの設計ができるシステムを作ったんです。当時はどのメーカーもまだ手計算でした。他社と差別化するために、自分たちで設計できるようにしたかったのです。そして、自社ブランドを作り、品質を磨いてお客様に長く買っていただける商品を作りたかったんです。残念ながら、自社ブランドを打ち出した当初は、まったく反響がありませんでしたね。アメリカならオーガニックの魅力が伝わるのではないかと、展示会に参加しました。オーガニックの品質と、今治の織物技術が凝縮された複雑なデザインで勝負したのですが、こちらもまったく受け入れられませんでした。ところが、意外なことに、シンプルなデザインのタオルが高い評価を受けたんです。

2002年はニューヨークへ。全米最大規模の展示会「ニューヨークホームテキスタイルショー」に初出展。Best New Product Awardを受賞します。

アメリカのタオルにはないカラーラインの商品だったのですが、「池内の色はハッピーカラー」とコメントをいただきました。すでに風力発電の電力を100%利用した工場を稼働し、環境に配慮した生産工程にもこだわっていたので、その点も評価されました。

切れた糸をつなぐ女性職人。点灯するランプをヒントに、4000本もの糸の中から切れた箇所を見つけ出し、直す。彼女は今年、今治タオル工業組合社内検定に合格しました。女性の合格者は、まだ希少な存在です。

最終検品で、一枚ずつ目視検品をします。バスタオルの場合、2人がかりで息を合わせて進めていきます。製造工程で飛び出したタオルのパイルを見つけたら、糸切りバサミで一つずつ切りそろえます。「検品レベルの高さが、タオルメーカーの品質の証なんです」。

QRコードを読み込むと、畑にコットンの種を蒔くところから商品になるまで、全工程がわかるようになっています。2019年12月以降に出荷する殆どの商品にこのQRコードがついているそう。「トレーサビリティを実施しているタオルは、世界中でうちだけ」と池内さんは話す。

目を離したら、どこへ行くかわからない。挑戦し続ける姿に、ファンが生まれる。

2013年2月11日、池内タオルは創業60周年を迎えました。池内さんは次の60年後を見据え、リブランディングを決めます。

当時、アメリカでのブランド名は「IKT」。日本では「池内タオル」や、風力発電で作っているので「風で織るタオル」と呼ばれていました。この3つを統一したいと思ったんです。リブランディングは、D&DEPARTMENT PROJECTを手がけるナガオカケンメイさんにお願いしました。僕が出した条件はただ一つ。「池内という名を外してくれ」と。それなのに、ナガオカさんは「IKEUCHI ORGANICにしよう」と言うんです。唯一の条件なのになぜ「池内」が入っているのか、最初は理解に苦しみましたね(笑)。ナガオカさんは「オーガニックについていろいろ調べたけれど、ほかとは考え方が違う。これはIKEUCHI式ORGANICなんだ」と。ロゴの色はイエローにしました。オーガニックメーカーがあまり選ばない色ですが、これもIKEUCHI ORGANICらしさのひとつです。

そして2014年3月1日、池内タオルはIKEUCHI ORGANICに生まれ変わりました。その時、全製品、身体に有害な物質が含まれていないことを証明する、エコテックス・スタンダード100のクラス1を取得しました。

さらに企業指針を、「2073年(創業120周年)までに赤ちゃんが食べられるタオルを作る」としたそうですが、タオルなのに食べられる、とは一体どういうことなのでしょうか。

2014年2月にニューヨークでの展示会があったので、日本に先駆けて社名変更のパーティをしたんです。アメリカのパーティだし、ジョークが必要でしょう?そこで、「次は赤ちゃんが食べられるタオルを目指します」と言ったら、思いのほか評判が良くて。そのまま企業指針にしてしまったんです(笑)。でも、それによって方向性が一層はっきりしました。もう一段、安全レベルを上げるため、ISO22000という食品工場の認証資格を取りました。当然、トレーサビリティも必要だと考えました。

1999年に自社ブランド「IKT」を立ち上げた際、「最大限の安全と最小限の環境負荷」というコンセプトを打ち出しています。そして年々、安全レベルを上げているそうです。

それでもまだ、お客様にすべて満足いただいていると思ってはいません。コンセプトが成長し続けるからこそ、お客様はファンでいてくれるのです。目を離したらどこへ行くかわからない、今後もそれくらい変化していくと思います。「赤ちゃんが食べられるタオル」も、今はまだ笑い話かもしれません。ですが、60年後は本当に飲み込んでも問題がない衣料であることが当たり前という時代がやってくる可能性が十分あります。

小・中学生への社会見学会を開く機会も増えたそうです。

今年、見学に来た子に「60年後、このじいさんが嘘をついたか見に来てね(笑)」と言ったんですよ。そうしたら、「大丈夫。俺が会社に入ってちゃんとやってあげるから」って。今年一番うれしかったね。

「朝起きて顔を拭いたときに、タオルが気持ちよかったら、1日気持ちいいんです。タオル1枚で人生が変わるんですよ」と話す池内さん。

今治のタオル産業の衰退を経験してから、約20年。今、IKEUCHI ORGANICをはじめとする今治のタオルメーカーが、自分たちのタオル作りに誇りを持って生産し、活気を取り戻しています。今治のタオルたちは、これからもよりたくさんの人に届き、日々を優しく包んでいくことでしょう。その中でも、とびきりユニークな商品を生み出しファンを魅了し続けるIKEUCHI ORGANICの未来を、ありありと思い浮かべることができました。

池内計司(いけうち・けいし)さん
池内計司(いけうち・けいし)さん

代表。今治市生まれ。松下電器産業(現パナソニック)に12年間勤めた後、1983年、池内タオルに入社、社長に就任。SULZER織機(スイス製)の超高速ジャカード仕様を業界初導入するなどジャガード織りの技術を高める。その後、風力発電100%による工場の稼働、業界初のISO22000認証など、環境に配慮したタオル生産を推進。1999年に立ち上げたオーガニックブランド「IKT」はアメリカや日本で高い評価を受ける。2014年に会社名をIKEUCHI ORGANICへ変更した後は「赤ちゃんが食べられるタオルづくり」を目指し、赤ちゃんから安心して使えるタオルとしても人気を集めている。

「愛媛県産真珠」日本一の養殖産地から、揺るぎない品質と新たな価値を。

「愛媛県産真珠」日本一の養殖産地から、揺るぎない品質と新たな価値を。

愛媛県は、数ある真珠の中でも繊細で奥ゆかしい輝きを持つことで知られる日本産アコヤ真珠の生産量が10年連続全国1位を誇る養殖の名産地です。

INTERVIEW with 愛媛県漁業協同組合・暁工房
「じゃこ天」獲れたての生魚を骨ごとすり身にした、愛媛伝統のスーパーフード。

「じゃこ天」獲れたての生魚を骨ごとすり身にした、愛媛伝統のスーパーフード。

農林水産省選定の「郷土料理百選」にも選出され、日本全国にファンを広げる愛媛の伝統的な練り物・じゃこ天のこだわりを聞きました。

INTERVIEW with 谷本蒲鉾・安岡蒲鉾
ブランド豚「愛媛甘とろ豚」の秘密

ブランド豚「愛媛甘とろ豚」の秘密

科学的にも証明されている愛媛甘とろ豚の美味しさ。その背景には愛媛県産のエサや水を利用した丁寧な飼育がありました。

INTERVIEW with 松田養豚・志波養豚
現代の暮らしを彩る、新しい水引のカタチ。

現代の暮らしを彩る、新しい水引のカタチ。

愛媛県の伝統的特産品にも指定されている歴史深い「水引」。そんな水引の職人たちは、現代にも合う水引の新しいカタチを作り続けていました。

INTERVIEW with 伊予水引金封協同組合・星川豊光商店
上質なおもてなしに、心が解き放たれていく現代湯治。

上質なおもてなしに、心が解き放たれていく現代湯治。

“普段着の非日常“がつまったおもてなしへのこだわり。無料レンタル可能な今治タオルから愛媛県産品を利用した食事など、細部までつまったこだわりを五感でお楽しみください。

INTERVIEW with 道後御湯
一度泊まったら、また訪れたくなるおもてなし。

一度泊まったら、また訪れたくなるおもてなし。

ほっとくつろげるセカンドハウスとして、細部に宿るおもてなしを繰り広げる道後温泉八千代。さらに、愛媛県産品を利用した食事や展示会「愛媛職人展」を開催されるなど、愛媛県の魅力を思う存分ご体感いただけます。

INTERVIEW with 道後温泉八千代
今治のタオルの歴史と魅力 Vol.1 IKEUCHI ORGANIC

今治のタオルの歴史と魅力 Vol.1 IKEUCHI ORGANIC

業界初のISO22000認証など、環境に配慮したタオル生産を推進。「赤ちゃんが食べられるタオルづくり」を目指し、赤ちゃんから安心して使えるタオルとしても人気を集めている。

INTERVIEW with IKEUCHI ORGANIC
今治のタオルの歴史と魅力 Vol.2 丹後

今治のタオルの歴史と魅力 Vol.2 丹後

大人の女性を中心に人気のタオルを作る「丹後」。お客様、地域の人たち、そして作り手。タオルでみんなの幸せを増やしたいと、上質で実用的なタオルづくりを手がける。

INTERVIEW with 丹後
みかん栽培の新しい価値を追求するミヤモトオレンジガーデン

みかん栽培の新しい価値を追求するミヤモトオレンジガーデン

グローバルGAPとスマート農業の活用で、持続可能な農業を。みかんの生産、加工、販売を行う。代名詞「塩みかん」は、隠し味としてプロの料理人からも評価を受けています。

INTERVIEW with ミヤモトオレンジガーデン
砥部焼の世界へ Vol.1 梅山窯

砥部焼の世界へ Vol.1 梅山窯

砥部焼で最も歴史のある窯元「梅山窯」は、創業130年。砥部焼の歴史を支えた。今も手作り、手描きの技法で一つひとつ手間暇をかけて作り上げます。

INTERVIEW with 梅山窯
砥部焼の世界へ Vol.2 ヨシュア工房

砥部焼の世界へ Vol.2 ヨシュア工房

伝統を守りながらも新しい作品を生み出し続ける「ヨシュア工房」。濃厚な青のグラデーション「ヨシュアブルー」は挑戦と失敗の上に生まれました。

INTERVIEW with ヨシュア工房
愛媛の特産品が生んだ「みかん魚」

愛媛の特産品が生んだ「みかん魚」

愛媛特産のみかんとブリや鯛などを組み合わせた「みかん魚」。魚独特の生臭さが軽減されることもあり、食べやすいと好評です。

INTERVIEW with 宇和島プロジェクト・中田水産