素朴で、あたたかく、頑強。人々の暮らしとともに続く、砥部焼の世界へ Vol.2 ヨシュア工房
陶芸には陶器と磁器の2つがあることを知っていますか。大きな違いは原料です。陶器は土物、磁器は石物と呼ばれ、砥部焼は磁器のひとつです。
砥部の「砥」は砥石の「と」を表すように、磁器の原料に適した砥石が採れることから、大洲藩・九代藩主、加藤泰候が砥石くずを使った磁器づくりを命じたことから、砥部焼が作られるようになったと言われています。白磁に藍色の染付が砥部焼の基本のスタイルですが、厚みと重量感があり、割れにくいことから、“夫婦喧嘩で投げても割れない”「喧嘩器」という逸話まで生まれています。今回、この伝統工芸品を生み出す窯元、「ヨシュア工房」を訪ねました。
伝統を守りながらも新しい作品を生み出し続ける「ヨシュア工房」。穏やかな語り口調の竹西さんですが、ヨシュアブルーを生み出した背景には、飽くなき挑戦がありました。
「新しいものを生み出さなければ」。挑戦と失敗の上に生まれた、ヨシュアブルー
ヨシュア工房は先代が昭和41年に「圭仙窯(けいせんがま)」をスタートし、その後、2001年にヨシュア工房として竹西さんが中心になって活動をはじめました。竹西さん自身の陶芸歴は約40年にもなります。
転機となったのはバブル崩壊後。業界全体が下火となり、「何か新しいものを作らなければ」という思いを持ち始めた竹西さん
“ヨシュア”は旧約聖書に登場する指導者の名前です。新しい領域を獲得していく姿に感銘を受けました。僕も今までになかった砥部焼を作ろうと決めて、工房名をヨシュア工房としました。
挑戦と失敗の末、約8年前にできたのが「ヨシュアブルー」でした。濃厚な青のグラデーションが見る人の目を引き付けます。生まれたきっかけについて詳しく伺いました。
道後に「CHAHARU離れ 道後夢蔵」という旅館があるんですよ。そこの客室のインテリアや食器を依頼されて、10種類くらい、様々な色やデザインのものを作ったんです。すると、そこに泊まったお客様が、「あの青い器がほしい」と工房に訪ねて来られたんです。他にも同じ器が欲しいといらっしゃるお客様が増えはじめ、「これだ!」と直感しました。当時は1種類のデザインだったのですが、濃淡や塗り方を変えながらバリエーションを増やして、現在のような形になりました。昔はヨシュアブルー以外のものもたくさん作っていたのですが、今では窯を開けると全体が真っ青に見えるほど、ヨシュアブルーの生産が増えましたね。
磁器用の土をろくろにのせて回しながら形を作っていく。器の基礎が決まる、とても重要な工程。砥部焼には鋳込み型に土を流し込んだり、板状にした土を成形するたたら作りもあるが、ヨシュア工房では型ろくろを使った作品が大半を占める。
素焼きの後、余分なものをふき取る。ヨシュア工房では竹西さんを含め5人のスタッフがいる。「スタッフの力を最大限に活かして良いものを作るにはどうしたらいいか、悩みはいろいろありますね」(竹西さん)
スプレーガンで器に「呉須(ごす)」を吹き付けていく。完成すると、美しいグラデーションになる。「本来、呉須の青の原料となるコバルトは彩度の高い色なんです。それを僕が好きな緑がかった深みのある青になるよう、いろんな原料を混ぜています」
一目見た瞬間、「わあっ」と歓喜の声が上がるものを作りたい
深く引き込まれそうな、竹西さんのヨシュアブルー。原料の混ぜ方や焼き方などで青の出方がまったく違ってくるとのこと。制作過程で竹西さんが大事にしているのはどんなことなのでしょうか。
見てくれた人がワクワクして、思わず「わあっ」と声が上がるようなものを作ることです。ヨシュアブルーでは、1つの器に対して青と白の割合を7対3にしています。白が入ることで柔らかい雰囲気が出てくるんです。
確かに、全体が青いものより白の部分が残っている方が、青がさらに引き立つように感じます。
お客様からは「何をのせても美しい」と言ってもらえることが多くて。私も自宅でおかずやごはん、麺類、デザートなど、いろいろものを乗せて使っていますが、何にでも合うんですよね。青はほかの色を活かす色。黄色も赤色も映える。そのためにある色なんじゃないかと感じます。いろんな食品を乗せて、いつもより美味しく見えたと言ってもらえたらうれしいですよね。
ヨシュアブルーで新しい砥部焼の世界を創り出した竹西さん。これから目指すのも、やはりこれまでにないもののようです。
砥部焼は、伝統的に日常使いの器というイメージが定着していますが、僕はそれだけでなく、ハイクオリティな作品にも挑戦していきたい。そのため、個人の陶芸作家としての活動も続けています。作家活動で新しいものに取り組み、そこで得たものを工房での制作にも活かしていきたいです。そして、流行に左右されない、いつまでも続くものに目を留めていきたいですね。
スプレーガンで器に呉須を吹き付ける際、腕への負担が大きく、竹西さんは一時期、腱鞘炎でお箸も持てなくなったそうです。負担を減らすため、スタッフへの指導も進めていますが、安定した着色といくつかのデザインを習得するのに4、5年はかかります。ですが、手で作り続けるために気長に構えているそうです。
大変な作業、スタッフへの指導など、多大な労力をかけても、「手作り」への強い思いをもつ竹西さん。今後も様々な作品を生み出し、様々な家庭の食卓を彩ることでしょう。しかし、手作りであることはこれからも変わらないはず。ぜひ一度手にとって、砥部の職人が生み出す手作りの温かさを感じてみてください。
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