「じゃこ天」
獲れたての生魚を骨ごとすり身にした、愛媛伝統のスーパーフード。
熟練の職人が昔ながらの石臼(いしうす)で、究極の歯ごたえに練り上げる。
じゃこ天を初めて食べた人は、煮干しなどをかじった時のようなジャリジャリとした歯ざわりに驚くかもしれない。「じゃこ天は、新鮮な生魚を骨と皮までまるごとすりつぶして使っています。だから表面に独特の歯ごたえがあり、すり身にはコクと栄養が凝縮しています。」と語るのは、宇和島市で安岡蒲鉾を営む2代目・安岡一さん。創業時は魚屋だったという確かな目利き力で、その日近くの市場に水揚げされた魚の状態を見極めて、じゃこ天の材料となる魚種を厳選しブレンドしていく。製造時に特にこだわっているのは、昔ながらの石臼を使ったすり身づくり。「表面がザラついた石臼を使うと、キメの細かい上質なすり身になり弾力が出て格段においしくなります。」と、多くの練り物業者が大量生産のために導入している大型ミキサーを使用せず、あえて時間と労力のかかる伝統的な製法にこだわる理由を語る。しっかり粘りが出るように一旦冷やしてから、ゆっくり時間をかけて丁寧に練りあげたすり身は、滑らかさを出すために卵白を加え、魚の風味を生かすためにクセのない菜種油で揚げていく。
原料が持つ特性を生かしたすり身づくりができるのは、季節ごとに変化する魚の種類や身の性質を熟知した職人たちが持つ高い技術の賜物。高精細センサーのような手指の感覚で、すり身の状態を瞬時に感知しながら練り上げていく。
「40年のキャリアを持つ工場長を中心に決してマニュアル化できない伝統の手仕事が連綿と継承されています。」と安岡さん。これからも愛媛県の素材・技術・風習を生かしたじゃこ天作りに励みたい。」と安岡さん。
近海で獲れた新鮮な小魚を、骨ごとすり身にする贅沢。
袋から出したら軽く炙って醤油を垂らし、好みに合わせてすりおろし生姜をのせるだけ。そのままお箸でつまんで一口かじると、口の中いっぱいに広がる超濃厚な“魚感”。じゃこ天には、加工食品である練り物とは思えないほど、魚の鮮度が凝縮している。「うちのじゃこ天は、獲れたての新鮮な小魚を骨ごとすりつぶしています。」とその理由を語ってくれたのは、大正5年創業の谷本蒲鉾四代目・谷本憲昭さん。効率化が求められ多くの練り物業者が原料を海外産の冷凍すり身へとシフトする中で、今でもその処理に手間のかかる生魚を自社で加工してすり身にしている。もともとは、魚市場で売れ残った雑魚(ざこ)と呼ばれる小魚を生のまますりつぶしてさっと揚げる地産地消のエコ料理だったじゃこ天。伝統的な郷土食の製法を継承した昔ながらの味わいは、今では失われつつある生粋の魚料理と言えるかもしれない。
「谷本蒲鉾の本店がある八幡浜地区は、トロール漁船の基地として地元の魚食を支え続けてきた西日本有数の八幡浜市場に近く、新鮮で希少な生魚が手に入ります。」と谷本さん。
谷本蒲鉾のじゃこ天は、原料となる魚種が異なる2種類。「昔造りじゃこ天」は様々な小魚をブレンドした濃厚な味わい。「ハランボじゃこ天」は、ほたるじゃこ(通称・ハランボ)をたっぷり使用した上品な仕上がり。
今も愛される“現役の郷土料理”だから、伝統の味が深まっていく。
郷土食や地元名物と謳われる食品の多くが、お土産などの贈答用として消費される中で、愛媛県のじゃこ天は、今も地元の人に愛される現役の郷土料理だ。多くの年配者一人ひとりがご贔屓のじゃこ天を持つほどに、愛媛県民の食卓には欠かせない。安岡蒲鉾が営む宇和島市では、約40店舗ある蒲鉾店同士の情報交換も盛んで、店舗の垣根を超え地域一体となって伝統の味を高めていく気風がある。「年長の職人の方が丁寧に魚をさばくのを見て、海から命をいただいていることの大切さに気付かされたり、お客様に対面販売する中で勉強させてもらえるのは、地域に根付いた郷土料理ならではです。」と語る安岡さんは、江戸時代から400年続く練り物文化が、今もじゃこ天づくりの礎となっていることに感謝の気持ちを感じているという。そんなじゃこ天の伝統を次世代につなげていくために、じゃこ天づくり体験や工場見学など様々なイベントを開催している。
2019年5月に新設した安岡蒲鉾工場内の壁面には、昔ながらの職人による作業風景が温かみのあるタッチのイラストで描かれている。対米HACCPの認証を受けた万全の安全体制を整備。
安岡蒲鉾の「宇和島じゃこ天」にパッケージには、“とれたて小魚100%”の文字。店ごとに個性があると言われるじゃこ天の中で、「ほどよい弾力とほどよい歯ざわりがおいしい」と評判で全国にもリピーターが多いそう。
現代人の魚不足を解消する、手軽でおいしい理想の健康食。
青魚由来の健康成分であるDHA・EPAや良質なタンパク質、小骨に含まれるカルシウムなど、魚には現代人に必要な栄養分がバランスよく含まれている。その一方で、平成18年に初めて肉の摂取量を下回って以来、食生活の変化や料理の煩わしさなどを理由に魚離れの傾向は加速している。じゃこ天の栄養含有量を自社の商品で調べたことがあるという谷本さんは、「骨ごとすりつぶすことで、魚の栄養を手軽にたっぷり摂ることができます。」と語る。谷本蒲鉾では、唯一の味付けである塩も、ミネラルやカリウムが豊富な海水塩にこだわっている。魚の栄養が丸ごと入っていて、おいしくて、食べやすい。三拍子揃ったじゃこ天は、まさに現代人のための万能食材。地元では、おでんや鍋物の具としてはもちろん、お肉の代用品としてカレーや炒め物などにも使っているというから、試してみたい。
主食や汁物、主菜に副菜と、どんな料理にぴったり合うのもじゃこ天の魅力。ぎゅっと凝縮した魚のコクが、料理の味わいを深めてくれる。
その日水揚げされたばかりの新鮮な生魚を丸ごと使っているから、おいしさも栄養も抜群。
匠の技がここにも!
“愛媛職人展”で扱った、
今回取材した蒲鉾屋さんのすご味をご紹介。
愛媛県の練り物文化は、江戸時代に伊達政宗の長男である秀宗が宇和島藩の初代藩主となった際、仙台から蒲鉾職人を同行させたことがルーツ。古くから「揚げて天ぷら、蒸したら蒲鉾、焼いたら竹輪」と言われるように、練り物料理のバリエーションは豊富で、じゃこ天以外にもおいしい逸品が盛りだくさん。
谷本蒲鉾
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①八幡しゅうまい(ハモ・鯛・イカ)
愛媛県名物の魚類を練り物にして使用した贅沢な海鮮しゅうまい。少数世帯でも食べ切りやすい4個入りのサイズ感に加え、レンジで作れるのも便利。全国の高級スーパーでも販売される人気商品。
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②レンジでじゃこ天
谷本蒲鉾自慢の「昔造りじゃこ天」が、火を使わずに加熱できる電子レンジ対応に。真空加工を施したパッケージだから、鮮度や味わいを損なわずに長期保存が可能!
安岡蒲鉾
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①じゃこつみれ
じゃこ天と同じハランボのすり身をたっぷり使用。骨と皮まですりつぶして入っているから、煮込めば煮込むほどダシが出る。鍋物や汁物はもちろん、炊き込みごはんに入れても、コクと味わいがアップ!一口サイズで食べやすいのも嬉しい。
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②あげ巻
じゃこ天と並ぶ安岡蒲鉾の人気商品は、昭和63年の全国蒲鉾品評会で最高賞である「農林水産大臣賞」を受賞したロングセラー。上質な蒲鉾と油揚げを“の”の字に巻いた美しい色合いの巻物は、おせち料理やお祭りなどハレの日にもぴったり。